大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

名古屋高等裁判所金沢支部 昭和24年(控)909号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

(要旨)

辯護人高見之忠の控訴趣意第一點の要旨、原審一件記録をみるに其の第四回公判調書中檢察官は被告人櫻田好一に對する收賄被告事件記録の公判調書中證人越田太郞同久郷勝馬、同置田正友の各證言部分を本件の第三回起訴の第一訴因を立證する爲め取調を請求し被告人及主任辯護人の同意の下に右書類の證據調が爲されたこと、檢察官に於て各證人の證言を記載した公判調書の謄本を提出したいと述べて裁判官に提出した旨の記載があるのに本件一件記録中右證人置田正友の證言部分を記載した調書の謄本は何處にも見當らない。

元來右置田、越田、久郷の各證言は昭和二十四年五月六日付第三回起訴状所載第一訴因を立證する爲めに檢察官により提出せられた唯一の證據であり、このような重要な書類の一部提出につき刑事訴訟規則第二〇六條又は第二〇七條による排除决定等訴訟法上の手續を經ることなくして未提出の状態となつて居ることは違法なること明かであるのみならず右置田の證言は原判决第二の判示事實の成否を决定するにつき重要な證言であつて該證言調書の提出のないことは原判决の事實認定に重要な影響がある。

蓋し同第二判示事實は本來被告人の上司である置田正友が被告人等部下と共にハイキングに赴いた途次日本發送電株式會社北陸支店の黑部第二、第三發電所を見學した際同社の越田太郞や久郷勝馬に誘われた事に基因するものであつて被告人は全く上司である置田正友の指示に從つて行つたものであるに過ぎないのであり、且つ越田太郞に於ても一の儀禮的な接待として行つたものに過ぎない。特に置田に於ても收賄の意思のなかつたことを供述している模樣であるからである。

(判斷)よつて所論原審公判調書を觀るに、被告人櫻田好一に對する收賄被告事件の取寄記録の公判調書中證人越田太郞同久郷勝馬、同置田正友の證言を記載した部分が本〓昭和二四年五月六日附第三回起訴事實第一訴因(原判决第二認定事實書)立證の爲め檢察官の請求により所論のような證據調を實施せられ其の調書の膽本が裁判官に提出された旨の記載があるに拘らず本件記録に添付された右調書の謄本は右置田正友の證言部分の記載を完全に缺如しているのみならず他に右置田正友の證言部分のみを別途に謄本に作成提出したような證跡もないので右證言部分の調書謄本は前記公判調書の記載に拘らず裁判官に提出された事實を否定さるべきが至當であらう。そしてかかる認定は公判調書の證明力に關する刑事訴訟法第五二條の規定の趣旨と何ら矛盾するものでない。蓋し同條は公判期日に於ける訴訟手續で公判調書に記載された事項の眞實性を證明するには公判調書のみを唯一の資料とすべきであるというに過ぎず、進んで公判調書の記載に其の内容の眞實性を擬制する効力までを賦與したものではないからである。而して刑事訴訟法第三一〇條は訴訟當事者が證據調を請求し其の取調を終えた證據書類又は證據物は原本又は謄本として遲怠なく之を裁判所に提出すべきことを命ずる趣旨に鑑みれば右の證據はすべて裁判の基礎となる形式資料として裁判官の支配内に集中し其の判斷の確實を期する條件たらしめたものと考えられるから之に違反した前記調書謄本の不提出は同調書の内容如何により或は原審裁判官の認定を左右したかもしれないから判决に影響を及ぼすべき訴訟手續の違反たることを免れず他面之を提出せしめないで審理判决した原審は必要な證據の形式的審査及十分な判决の基礎資料の檢討を盡くしたものと言うことを得ず破棄を免れない。論旨は理由がある。

同第二點並に第三點の要旨

原判决は、被告人の同意しない證據書類を證據として事實を認定した違法がある。原判决は判示第二事實の認定證據として、一、被告人の當公廷に於る判示同旨の供述、一、被告人に對する檢事の供述調書二通、一、被告人に對する司法警察員の供述調書一通、一、越田太郞に對する檢事並司法警察員の各供述調書一通、一、久郷勝馬に對する檢事の供述調書二通、一、同一に對する司法警察員に對する供述調書二通を列擧したるところで右判示第二事實とは第三回起訴の第一訴因であるが、この訴因の證據書類として被告人に於て提出の同意をしたのは被告人櫻田好一に對する收賄被告事件の取寄記録中證人越田太郞、同久郷勝馬、同置田正友の證言記戴部分であつて右列擧の被告人に對する檢事の供述調書以下の證據ではない。然らば原判决は被告人に於て同意しない從つて證據能力のない證據をもつて判示第二事實を認定した違法があり破棄を免れない。原判决は又被告人に不利益な自白を唯一の證據として事實を認定した違法がある。原判决はその判示第二事實を認定するに當り證據として被告人の公判廷における自供及び被告人に對する檢事並に司法警察員の供述調書即ち被告人に不利益な自白を援用している以外に判示第二事實を認定する證據は何も示さされてない。蓋し前掲第二事實の列擧證據の中越田大郞に對する檢事並司法警察員の各供述調書一通以下の證據はすべて判示第三事實の認定證據であつて第二事實の認定に援用出來ないものであるからである。よつて原判决は判示第二事實を認定するのに被告人に不利益な自白を唯一の證據として有罪の判决をした違法がある。

(判斷) 原判决を見ると其の判示第二及び第三事實の包括證據として弁護人所論の各證據標目を列擧していることが明かである。然るに原審第二回及第四回公判調書をみると檢察官は第二回公判期日において第三回起訴の第一訴因(原判示第二事實)立證の爲め被告人櫻田好一に對する收賄被告事件の記録取寄を求めると述べて其の旨の證據决定を受け次いで第四回公判期日に於て裁判官が右取寄記録を訴訟關係人に提示した後檢察官は右取寄記録の公判調書中證人越田太郞、同久郷勝馬同置田正友の各證言部分を右第三回起訴の第一訴因の立證として取調を請求すると述べたところ被告人及主任弁護人は檢察官請求の書類を證據とすることに同意し且つ其の證據調にも異議のない旨述べ之につき適法な證據調べの爲された事實は認められるけれども弁護人所論の如く、前記原判决の列擧標目中越田太郞に對する檢事並司法警察員の供述調書各一通以下の書面については檢察官に於て第三回起訴の第二訴因(原判示第三事實)の證據として提出し被告人並に弁護人に於て之を同事實の證據とすることに同意した事實があるのみで右書面が第三回第一訴因(原判示第二事實)の證據として提出せられ同事實の證據として同意せられた事實を認むる資料は皆無である。然るに原判决がその第二事實の認定資料として適法に證據調の爲された前記取寄記録の公判調書中證人越田太郞以下の供述部分の記録を援用しないで却つて右の如く當該事實の證據として提出されたものではなく且つ同事實の證據とすることに同意せられたものでもない。前記越田太郞に對する檢事並司法警察員の供述調書各一通以下書面を援用したことは他に何ら刑事訴訟法第三二一條第一項第二、三號所定の條件の認められぬ本件に於ては採證の法則を誤つたものであると言はなければならない。尤も原判决は前記の如く判示第二、第三事實を包括して其の認定證據を列擧しているのであるが若し其の趣旨にして右越田太郞に對する檢事並司法警察員に對する供述調書以下の書面は第二事實の證據とするものでなく第三事實の證據として援用したものに過ぎないと推測することが許されるとすれば、判示第二事實の援用證據として殘るものは弁護人所論の如く被告人の原審公廷に於ける供述と、同人の檢事並に司法警察員に對する各供述調書三通のみとなり被告人の自己に不利益な供述を唯一の證據として犯罪事實を認定したこととなり是れ亦採證の法則に違反するものである。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!